東京高等裁判所 昭和39年(ネ)2100号 判決 1965年10月12日
控訴人 被告 松隈孝雄 外二名
訴訟代理人 長田喜一 外一名
被控訴人 原告 東京新宿倉庫株式会社 代表者 佐藤祐太郎
訴訟代理人 河崎光成 外一名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
控訴代理人は原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述と証拠関係は、
控訴代理人において控訴人日本不動産株式会社、同大橋富重両名の主張として、
一、訴外松田しづ(原審脱退被告)は昭和三七年五月二日控訴人松隈との間に極度額金八、〇〇〇万円の継続的金銭貸付契約を結びその担保として本件不動産に付同日売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記並に停止条件付賃借権設定の仮登記をなしたるうえ、同日金五、〇〇〇万円を貸与した。右五、〇〇〇万円は昭和三七年五月一二日金三、〇〇〇万円、同月一四日金五、〇〇〇万円を夫々控訴人松隈が被控訴人から借入れた金員を以て弁済を受けたけれども訴外松田しづは前記継続的金銭貸付契約に基き同年六月二日控訴人松隈に対し改めて金五、七〇〇万円を貸与しているので右訴外人の所有権移転請求権保全仮登記は金五、〇〇〇万円の返済により抹消すべきではなく継続的金銭貸付契約が解除せられるまで有効に存続する。加之後に貸付けられた金五、七〇〇万円は返済された事実がないから仮登記権利者訴外松田しづの地位を承継した控訴人日本不動産株式会社、同大橋富重の各登記は有効であつて被控訴人の請求は理由がない。
二、仮に右仮登記が返済により抹消すべきもので失効したとしても当事者は六月二日の五、七〇〇万円の貸付に際し従前の仮登記を抹消し新たに仮登記手続をなす手数を省略することに合意し従前の仮登記を後日の貸付金の担保として生かしたものであり被控訴人に於てその間に登記上何ら権利保全の行為もない以上被控訴人の請求は失当であると述べ、
被控訴代理人において右控訴人らの各主張事実を否認し、本件不動産の売買代金は八、〇〇〇万円であつたが契約書には一億円と表示したものであると述べ控訴代理人は右主張を争わないと述べ、
証拠として
被控訴代理人は甲第六、七号証を提出し、控訴代理人は当審証人森脇将光の証言を援用し甲第六、七号証の成立を認めた、外は原判決の事実摘示と同一であるから之を引用する。
理由
当裁判所も被控訴人の請求を正当と認める。その理由は控訴人の当審における主張に対し次の通り判断を附加する外は原判決の理由と同一であるからこれを引用する。
一、控訴人日本不動産株式会社、同大橋富重はその主張として訴外松田しづ(原審脱退被告)は昭和三七年五月二日控訴人松隈との間に極度額金八、〇〇〇万円の継続的金銭貸付契約を結びその担保として本件不動産上に売買予約による所有権移転請求権保全仮登記並に停止条件付賃借権設定仮登記をなした。従つて右契約により同日貸付けた五、〇〇〇万円は同月一二日金三、〇〇〇万円、同月一四日金五、〇〇〇万円の二度に夫々弁済を受けたけれども継続的金銭貸付契約に基き同年六月二日更に金五、七〇〇万円を貸付け未だその返済を受けていないから訴外松田が所有権移転請求権保全仮登記等を抹消しなかつたのは当然であるというが右主張に吻合する当審証人森脇将光の証言部分は同証人の控訴人松隈から八、〇〇〇万円の返済を受けると共に登記抹消に必要な書類を交付したという証言と矛盾するのみならず原審証人堀川利通、同加藤孝三、原審における控訴人松隈孝雄の本人尋問の結果に照し到底信用し難く乙第一号証その他控訴人の全立証によるも控訴人松隈と訴外松田しづとの間に昭和三七年五月二日控訴人主張のような継続的金銭貸借契約が締結された事実を認めるに足る証拠がないので右主張は採用出来ない。
二、本件不動産につき訴外松田しづのために原判決別紙目録(一)、(四)記載の通りの所有権移転請求権保全仮登記及び賃借権設定仮登記の存すること、右の各登記は右松田しづが昭和三七年五月二日控訴人松隈に金八、〇〇〇万円を貸与した際その担保として本件不動産につき売買予約並びに停止条件付賃貸借契約を締結したことによるものであること、及び控訴人松隈の松田しづに対する右借入金債務は同年五月一二日同控訴人が被控訴人に売渡した本件不動産の代金として同日及び同月一四日の二回に受領した合計金八、〇〇〇万円をその頃松田しづに支払つたことにより全額弁済となつたことはいずれもさきに引用した原判決理由に認定する通りである。そうすれば右弁済により松田しづの本件不動産に対する担保権は消滅し同人名義の前記各仮登記は無効に帰したものというべきである。控訴人らは、同年六月二日松田しづから、控訴人松隈に金五、七〇〇万円を貸付けた際従前の仮登記を抹消して新たな仮登記手続をする手数を省略し前記の各仮登記を右六月二日の貸付金五、七〇〇万円の担保として生かすことを両当事者において合意したから右の各仮登記は右金五、七〇〇万円の債権の担保として有効であるというけれども、債権担保のためになされた所有権移転請求権保全の仮登記及び賃借権設定の仮登記が被担保債権の弁済により無効となつた後にその登記を他の債権担保の為に利用する旨を当事者間で合意しても、その間に当該登記の目的である不動産につき所有権を取得した第三者に対する関係においてはかかる合意は無効というべく、この場合右第三者の権利取得につき登記上権利保全行為がその合意前になされていたかどうかは問うところでないと解するのが相当である。本件において、被控訴人は昭和三七年五月一二日控訴人松隈から本件不動産を買受けその所有権を取得したことはさきに認定した通りであるから、たといその後である同年六月二日に控訴人ら主張の合意が当事者間に成立したとしても被控訴人に対しその効力を生ずるに由なく、この点に関する控訴人らの主張は採用できない。
三、よつて被控訴人の請求を認容した原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条に則り棄却し控訴費用の負担に付同法第九五条第八九条第九三条を適用して主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 岸上康夫 裁判官 小野沢龍雄 裁判官 室伏壮一郎)